『鬼神』と『金龍』

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  ──それから、どれ程の数の拳を叩き込まれただろうか。 1発? 10発? 1000発? いや、さすがに最後は無いか。 痛み以外の感覚が殆ど無い。 一時的に麻痺しているのか? …………あぁ、イカン、思考力も低下しちまっている。 そんな中でも、たった1つの確信だけは静かに、且つ残酷に、脳を支配し尽くしていった。 『勝てない』という確信。 過去と未来が逆転しないように。 二次元が三次元に、その三次元も四次元に逆らえないように。 『1』秒が『2』秒を超えることなんて、有り得ないのだと。 唐突に、そう理解した。 闘いとは、コンマ1秒の世界。 極限にまで削られた精神と肉体。 幾多の技と技とを掛け合い、その果てにあるコンマ1秒の隙を探し当てる。 それが闘いというもの。 だが、コイツは── 「…………死んだか?」 目の前にいるこの男は── 「おっ、まだ生きてんのか。 タフな野郎だなぁ、オイ」 その『コンマ1秒の世界』で抗う俺達を嘲笑う。 遥かに高い『1秒の世界』から、俺達を見下している。 文字通り、別次元の強さ。 俺なんかが敵う筈が…… 「四肢を折って、顔面を潰して、マリオネットみたいな姿で殺してやってもいいんだが……この俺と対等に殴り合ったお前だ、そんな不憫な殺し方はしねぇ。 だから、せめてもの情けだ……」 「そろそろ、死なせてやるよ」 セブンスターの両手が、俺の首に触れた。
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