走れユキト

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脚に大して力を入れず……そう、まるで小石を蹴るような感覚で、1歩後ろに下がってみた。 勿論、こんなバックステップじゃ回避は到底間に合わない。 『普通は』到底間に合わない。 だが残念なことに、俺は別の世界から飛ばされたイレギュラー。 『普通』じゃないってわけだ。 「おっ……とぉ!」 「ッッ!!?」 すぐ近くまで迫ってきていた相手の拳は、俺の心臓を打つこと無く空を裂くだけに終わった。 まさかあのタイミングで外すとは思っていなかったのだろう、田口は目を見開いて驚いている。 キモい顔だな(※悪口)。 「……おい、テメー! 今『何をしやがった』!?」 『何をしやがった』ねぇ…… まぁ、そりゃそうなるか。 普通は驚くわな。 たった1歩の軽いバックステップだけで『3メートル』も間合いが空いちまったんだから。 「能力者を知らねぇのか? 幹部の中でも雑魚だな、お前」 「な、何だとォ……!?」 この動揺を利用しない手は無い。 再び挑発を仕掛けてみる。 そして、案の定乗ってきた。 人間は頭に血が上ると、判断力が低下し視野も狭まり、動きも単調且つ直線的になる……らしい。 詳しくはハジメさんに聞け。 田口はかなり怒りのボルテージが溜まっている筈だ。 今の俺の動きを見てもまるで警戒していないのが、その証拠。 俺はビシッと田口を指差し、更に追い討ちを掛けた。 「悪いけど田口、お前はもう俺に『触れることすら』出来ねぇぜ」
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