番犬さんが通る

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『狗猫』 内向的で極度の人見知りな琴里が自ら進んで友達だと言ったのは、俺の知る限りではその狗猫ちゃんただ1人だけだ。 琴里は俺と違って、親の愛を殆ど授からずに育った。 それは両親が育児を放棄していたとかではなく、母は琴里を産んで間もない頃に亡くなり、自分にも他人にも厳しい父は全力で仕事に打ち込んでいたため時間が無く、不器用さも重なって未だに琴里とスムーズに会話出来ないでいる。 そんな境遇も理由の1つなのか、琴里は感情の起伏に乏しい。 大笑いも大泣きもしない、友達を作ろうとも思わない。 本人は気にしていないようだが、俺や親父は内心心配だった。 そんな琴里に、変化が訪れた。 高校に入学してから1ヶ月経った頃から、毎日のように頻りに夕飯の話題に上がる名前があった。 それが狗猫、本名は犬飼嶺子。 琴里が心を開いた友達。 何度も何度もその名前を耳にし、日を追う毎に琴里は本当に徐々にだが感情豊かになった。 以前より笑顔が上手になり、外出する回数も目に見えて増えた。 琴里が普通の女の子らしさを手に入れたのは、狗猫ちゃんの存在があったからなのだと思う。 「……まぁ、狗猫ちゃんも連休で体調を崩したんだろ。 きっとすぐに元気になるって」 「……うん、そうだね」 俺の根拠無さすぎる励ましにも、琴里は素直に返してくれる。 狗猫ちゃん……まだ会ったことも無いけど、ここまで琴里に元気を与えてくれたんだ、兄として是非お礼が言いたいな。 それと、最近妹が妙にアニメ知識を蓄えていることに関しても是非腹を割って話し合いたいと思う。
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