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「……まぁ、話を戻すけど。
それから何回もリュウを補導する機会があって、少しずつアイツのことを知っていったよ。
大学生より喧嘩が強くて、しかも頭もキレて、今までの喧嘩騒ぎを洗ってみたら、アイツが先に手を出したケースは1つも無かった」
思い出話を咲かすように、懐かしそうに微笑む九十九さん。
「その過程で知ったんやけどな」
その微笑みは、すぐに消えた。
「アイツが小学生の頃に、母親が行方不明になっとった」
──聞かなきゃよかった。
そう思える程に、辰本君の過去は他人の私が関わるには重すぎた。
「アイツの親父さん、会社が倒産したか何かで借金にまみれてな、毎日酒に溺れとったらしい。
そんで、母親は親父さんの暴力に耐え兼ねて……行方を眩ました」
「……そんなことが……」
父親からの暴力。
母親の失踪。
当時まだ中学生だった辰本君には耐え難い苦悩だっただろう。
それこそ、自分以外の全員が敵に見えてしまう程に。
「少しずつ……ほんまに少しずつやけど、俺とリュウは打ち解けて会話するようになった。
恥ずかしい話やけど……俺なんかでもアイツの親に代わって叱ってやるくらいは、とか考えてたよ。
まぁ、同情心かもやけどね」
天井を見上げている九十九さんの表情は、ちょっと照れ臭そうな、それでいてどこか寂しそうな……儚げなものだった。
「今になって思えば……俺はまだ一度も見てへんなぁ。
リュウが笑ってる顔を────」
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