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床に広がる自分の吐瀉物を焦点の定まらない目で眺めながら、私は脳裏に焼き付いた地獄絵図を拒絶しようと必死だった。
怖い。
恐ろしい。
見たくない。
触れたくない。
関わりたくない。
こんなの有り得ない。
有っていいわけがない。
どうすることも出来ない。
私が見た『それ』は────
「…………あれ?
君、いつから見てたの?」
『食人行為』
人が人を喰らう。
漫画や小説でしか起こり得ないと思っていた、非人道的行為。
それが今、私の目の前で繰り広げられている。
「……まぁいっか、別に見られて困るものでもないしね」
そう言って『彼』は、顔中に付着した血を服の袖で拭った。
……が、その服は既に血塗れで、『彼』の顔は血が取れるどころか更に赤く染まっている。
顔も、手も、足も、服も、部屋も何もかも、赤い。
私以外の全てが、赤い。
そして……血に塗れた『彼』は、その惨劇に全く似つかわしくない笑顔で、私に話し掛けた。
「また会ったね。
『イヌネコ』?」
『彼』は……この血の海を創ったコイツは、私が数十分前に助けた『あの少年』だった。
「アンタ……さっきの……」
「そうだよ、覚えてる?
そうそう、さっきは助けてくれてありがとう!
君が助けてくれなかったら……」
身動きを取れない私の目の前まで歩み寄り……少年はまた笑った。
「あの連中、グッチャグッチャに殺しちゃうところだったよ」
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