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「…………どうして?」
頭では解っている。
『危険だ』
今、私の目の前にいるコイツは、理解すべき存在じゃない。
早く逃げなくちゃ。
逃げないと、次は私が食べられるかもしれない。
なのに……何故だろう。
「こんな、酷いことを……?」
限界点を易々と踏み越え更に奥に到達した恐怖は、私に『逃げる』という選択肢を与えなかった。
だから私は、間抜けにも無防備な態勢のまま口を開いているんだ。
「どうしてって、そりゃあ……」
そんな私の心中など意に介すこと無く、少年は穢れ知らずな笑みを浮かべながら首を傾げた。
「お腹が減ったから食事するって行為が、そんなに変なのかな?」
────ブチッ
頭の中で、何かが切れた。
「……っざけてんなよ!!
お腹が減ったらお菓子でも干し肉でも食べたらいいじゃない!!
アンタを見てたら分かるよ!!
今までもこうやって無差別に人を殺して、食べてたんだろ!?
人間を……食べっ……!!」
ただ、恐ろしかった。
口に出せば出す程、目の前にいる少年が『人間』とは思えなくて。
狂った獣にしか見えなくて。
だから私は叫んだ。
恐怖を跳ね返すために。
そして……『構えた』。
「…………何、それ?」
自分でも解ってる。
冷静じゃないことくらい。
「……見たら分かるでしょ。
『ピストル』だよ……!」
それでも、どうしても構えずにはいられなかった。
護身だとか、威嚇だとか、そんな正当な理由じゃない。
ただ──アイツを撃ちたい。
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