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後退りながら、楓は笑っていた。
「馬鹿ですね、私。
一人で舞い上がって、一人ではしゃいで、君の迷惑も考えなくって…」
楓は今まで見た姿を一変させていた。
純粋には影が落ち、笑顔は切なく、子供染みた空気は冷え切っていた。
「それでも、好きなんですよ。どうして良いか分からないぐらい。ずっと頭から放れなくって、やっと会えたって思えたら、抑えられなくなって…
この気持ちに気づいたら、いてもたってもいられなかった。
だから、何度でも言います。
私は君を愛しています」
泣きそうでも、茶化すわけでもない。
真っ直ぐな、真剣な眼差しだった。
終始彼女の言葉に嘘があったとは思えない。
何か言わなければ。
何か答えなければ。
確かに彼女の言葉は大袈裟だと思う。
それでも、彼女には何か伝えなければいけない。
その義務がある。
この場合YESかNOだ。
けど、どちらを答えれば良い?
俺は彼女をどう思って――
「答えなくて良いです」
俺の思考全てを帳消しにして、まっさらにして、彼女は言った。
「この気持ちは私の我が儘ですから。だから、勝手に言わせてください。迷惑なら言ってください。
それに、今君の答えを聞いてしまったら、きっと取り返しのつかないことになっちゃいますから…」
だから、今はこのままで。
彼女はそう言い残し、歩き出した。
沈黙、静寂。
あまりにその空気と時間は重く感じた。
告白っていうのはこんなにも胸を締め付けるものなのだろうか?
たった昨日会っただけ。
それだけ。
けど彼女にとっては“だけ”では無いのだろうか。
もっと特別なものなのだろうか。
色々なことが飛びすぎて分からない。
分からないことだらけだ。
考えるのを止めよう。
きっと、考えることさえも、彼女を傷つけてしまう。
そう思えたから。
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