1話…惚れました!

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後退りながら、楓は笑っていた。 「馬鹿ですね、私。 一人で舞い上がって、一人ではしゃいで、君の迷惑も考えなくって…」 楓は今まで見た姿を一変させていた。 純粋には影が落ち、笑顔は切なく、子供染みた空気は冷え切っていた。 「それでも、好きなんですよ。どうして良いか分からないぐらい。ずっと頭から放れなくって、やっと会えたって思えたら、抑えられなくなって… この気持ちに気づいたら、いてもたってもいられなかった。 だから、何度でも言います。 私は君を愛しています」 泣きそうでも、茶化すわけでもない。 真っ直ぐな、真剣な眼差しだった。 終始彼女の言葉に嘘があったとは思えない。 何か言わなければ。 何か答えなければ。 確かに彼女の言葉は大袈裟だと思う。 それでも、彼女には何か伝えなければいけない。 その義務がある。 この場合YESかNOだ。 けど、どちらを答えれば良い? 俺は彼女をどう思って―― 「答えなくて良いです」 俺の思考全てを帳消しにして、まっさらにして、彼女は言った。 「この気持ちは私の我が儘ですから。だから、勝手に言わせてください。迷惑なら言ってください。 それに、今君の答えを聞いてしまったら、きっと取り返しのつかないことになっちゃいますから…」 だから、今はこのままで。 彼女はそう言い残し、歩き出した。 沈黙、静寂。 あまりにその空気と時間は重く感じた。 告白っていうのはこんなにも胸を締め付けるものなのだろうか? たった昨日会っただけ。 それだけ。 けど彼女にとっては“だけ”では無いのだろうか。 もっと特別なものなのだろうか。 色々なことが飛びすぎて分からない。 分からないことだらけだ。 考えるのを止めよう。 きっと、考えることさえも、彼女を傷つけてしまう。 そう思えたから。
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