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「遙さん、ベンチに座りましょう。立ち話もなんですから」
「あぁ、うん、そうですね」
「そんなに固くならないでください。いつもどおりの話し方で構いませんよ?」
「わ、わかった」
あまりにも優しい言葉だった。
大和撫子とは彼女のことではないのだろうかと思った。
何処かの令嬢なのか、仕草一つ一つが洗練されていた。
それから、彼女と何を喋っていたのか俺はあまり覚えていない。
緊張していてなのか、はたまた彼女に見惚れていたからなのか、それはわからない。
けど、触れてはいけないと無意識にレッテルが貼られていた。
あまりに繊細すぎて、美しすぎて、孤高に思えたのだ。
しかし、その壁を作ったようなその距離に俺は煩わしさを覚えた。
だから、あの時。
俺は、いかにして彼女の仮面をはいでやろうかと考えていたのを覚えている。
いや、その仮面をはがしたんだ。
いとも容易く、もろく、はがれた気がした。
たった一言、口にしただけだった。
たった一言。
「無理しなくいいんだよ」
そう言っただけだ。
「どうせ、ここには今俺達しかいないんだしさ。
無理してそんなに礼儀正しく振舞わなくたっていいよ」
「…………はい」
その笑顔は、作られたものではなく、純粋な子供のような笑顔だった。
仮面は剥がれていた。
あんなに楽しそうにはしゃいでいた彼女が嘘なはずが無い。
「じゃあ、遙さん。
お願いがあります」
夢の中の彼女は、過去の彼女は、嬉々、欣快、爽快に、微笑む。
「私と友達になってくれませんか?」
そして、頭や身体や意識が、おはようを迎える。
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