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昼休み。
それは誰もがわいわいと騒ぎながら食事をする学校でお馴染みの時間だ。
およそ五十分ほどの休憩が与えられるその時間に、俺・相模 遙は、食事という生物にとって必要不可欠な行為さえも忘れてしまうほど動転し、固まっていた。
俺の通う高校は全指定ブレザー式の制服だ。
しかし、現在目の前にいるそれは、堂々とセーラー服を着ている上に、黒い浴衣を羽織ることでコスプレチックな印象を与えていた。
「会いに来ちゃいました」
無邪気かつ無慈悲に、それこと鬼百合楓は満面花丸な笑顔で立っていた。
つくづく校門前の階段が人気の無く静かな場所であるという事実に感謝する。
無論、この女は校門を挟んでいる訳ではなく、今目の前に平然と立っているのだ。
教師と呼ばれる高校内で高い権力を持つ彼らに今出くわしたならば、この女共々俺も巻き込んで生徒指導室という一部の生徒のみが知りうる部屋に連行されることだろう。
いや、それならまだ良い。
下手をすれば警察にお世話ということになりかねない。
そうまでして高校の面子を潰すような真似はしないだろうが、想定や仮定の範囲では無いとは言い切れない。
「どうしましたか?」
「それはこっちのセリフだ」
彼女が言い切る前に俺は的確かつ淡々とツッコミを入れた。
「なんで此処に居るんだ?」
「君に会いたくなったからです」
答えになっているようで、全く答えになっていない。
胸を張る彼女の姿は一般的健全な男子なら胸をときめかし、頬を赤く染めるだろうが、実際に堂々と不法侵入を終えた彼女を目の前にして、はたして胸をときめかすだろうか?
答えはNOだ。
「な、ん、で、此処に居るんだ?」
「何故同じ質問が再び繰り返されるのか分かりかねますが、君が望むのであれば何度でも私は答えます。
君に会いたくなったからです」
「理由になっていないことにまず気付いてくれ!!」
そんな嬉しそうに自信満々に答えられても、それが不法侵入という法を犯しても良いことにはならないことぐらい俺だって気付いているんだからな!
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