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唐突で突然に、彼女は恥ずかしがることもなく、さも当たり前のように堂々と、はっきりと、言った。
これには俺も強く鼓動を打ち、今なお理解力が追いついていないのと動揺の中で、バクバクと鼓動を感じていた。
どうしてそうなった?
何が起こった?
何と言った?
動揺する反面、きっと勘違いだと、ニュアンスの違いだと、妙に冷静な自分があることに驚いた。
そして数分の沈黙を、未だ動揺を抑えられていないながらも俺は打ち壊した。
「な、何い、言っているんだ?」
明らかに声は震え、挙動不審なのは分かっていた。
が、彼女は笑みを絶やさずに、階段に座り込んでいた俺の横に座ると、顔をずいっと寄せた。
「惚れちゃったんです、君に」
鼻息も掛かりそうなほど近い、数センチの距離で、彼女は言う。
「あ、え…」
自分でも情けないと思うのだが、俺はこの歳十七年もの間、告白されたことは愚か、告白したことも無い。
全く恋愛というものに対しての抗体は無いのだ。
だからこうして、初めて告白されたことも、その告白の相手が法を犯しちゃっているのも、その告白の相手が美少女なのも含めて、動揺の範疇を超えてしまう訳だ。
顔から火が出るほど恥ずかしいという言葉の意味を分かっている気でいたのだが、どうやら気がしただけらしい。
これほどまでに身を持って穴があったら入りたいと思ったのは初めてかもしれない。
何故こんな時にマンホールの蓋が閉まっているのだろうと、常識さえも疑問に感じてしまう。
「耳が遠いのなら、何度でも言ってあげます」
彼女は俺の耳に顔を近づける。
もう吐息さえ聞こえるその距離。
心臓が左右に分裂しそうなのは俺の方だ。
「私は君のこと―――」
「うわああぁあ!?聞こえてる!聞こえてます!!」
反射的に彼女を引き剥がし、尋常じゃない動揺と呼吸に肩を上下させる。
「そうですか」
残念そうな訳でもなく、それなら良いと言わんばかりの表情は恨めしく思えた。
何故彼女はそうも平然としているのだろうか?
からかっているのだろうか?
そんな思考に回るが、彼女のあまりに純粋な笑顔を見るとそんな思考さえも打ちのめされてしまう。
いや、純粋過ぎて真偽が分からない。
矛盾した思考の中、俺が頭を抱えている様子を尻目に、彼女はどこからともなく深緑の布に包まれた何かを取り出して膝の上に置いた。
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