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解かれた布の中から顔を出したのは二つのおにぎりだった。
なんの変哲も無く、海苔とラップに包まれたそのおにぎりを、彼女は俺に差し出した。
「はい。お弁当はまだ練習中なので、今日はこれで」
俺が動揺しつつもそれを受け取るのを見ると、彼女は立ち上がり、階段を数段降りた。
タンタンとリズムを奏でてからくるりとこっちを見上げると、見惚れてしまうほどの無邪気な笑顔をみせた。
「感想はまた聞かせてくれると嬉しいです。
じゃあ、また」
そう言い残し、彼女はタンタンとまた階段を駆け下り、大の大人ほどの背丈の鉄格子の門を軽々と飛び越えてしまった。
その姿はとても綺麗で、まるで重力を感じていないようにさえ見えた。
あまりに綺麗でその瞬間が何十秒にも感じて、彼女の着地の音で我に返った。
しかし、すぐに彼女の姿は視界から外れ、消えてしまった。
呆気に取られる中、呆然と手元のおにぎりを見下ろした。
いかにも普通で、同時に腹が空いているこの時間にはこの上なく食欲をそそる物だった。
もしかしてこれを届けたかっただけなのではと首を傾げ、一つ頬張った。
中身は鮭。
それもなかなかの美味だった。
そういえば、お弁当は練習中と言っていた気がする。
これは犯行予告として受け取るべきなのだろうか?
そして、告白されたことを再び思い出して、一人顔を真っ赤に染めたのは言うまでもない。
「授業…出れない…」
そう呟いた俺自身、情けないな自分と嘆いた。
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