1話…惚れました!

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けどまぁ、全然、これ以上もなく、素晴らしい場面を見ている人間がいないことに感謝した。 それにしても、この街はこんなにも人がいないものなのだろうか。 足音も話し声も全くしない。 吹く風や鳥の囀りが聞こえ、この世界には俺達二人だけが取り残されてしまったような、そんな悲観的かつ楽観的に考えた。 こんな美少女と二人っきりの世界なら、どんな男子も喜んで世界を滅ぼすのかもしれない。 しかし、まぁ、俺も彼女となら悪い気はしないだろう。 「あのさ、鬼百合」 「楓」 小さく、幸せそうな笑顔のまま、鬼百合楓は呟いた。 「楓と呼んでください。 楓は私にとって誇らしいたった一つの固有名称ですから」 鬼百合、いや、楓は儚さが混じった笑顔を見せる。 同時にその笑顔と言葉は、頼むとか、お願いするとか、そんな対象に対しての言葉ではなく、まるで祈りを捧げるかのように見えた。 ただの自負だったのかもしれないが。 「か、楓」 「……はい!」 力強く頷く。 それは年相応の行動や素振りではなく、子供染みた素振りと大人びた雰囲気が生じて、不思議な感覚と印象を纏っていた。 人間なのかさえ疑問に思えた。 それについての理由は特にあるわけではない。 「それで何ですか?」 「え、あぁ、楓は学校行かなくて良いのか訊こうと思ってな…」 言葉を飲み込んだ。 まばたきも、呼吸も、時間そのものを停止させたように、一瞬、一秒も満たないだろう時間の中、楓は固まっていた。 そして途端に「え、あ、そのね!」と慌てていた。 明らかな挙動不審だった。 「今日、建立記念日でして」 「嘘だろ」 「……………」 「嘘だろ?」 「はい」 あっさり肯定しやがった。 「けど、心配ありません」 「心配ありまくりだろう!?」 「いえ、大丈夫です。 大丈夫なんです」 「………」 空気が冷たい。 言葉を発することを止めさせる。 「大丈夫ですから、気にしないで二人でランデブーしましょう!」 「空気がぶち壊しだあぁあ!?」
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