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「はぁ…」
汗で顔にへばりついた髪を掻き上げながら溜め息を吐く。
ここ何年かまともに寝ていない。いや、寝られないのだ。
悪夢しかみないから。毎夜毎夜同じ夢。
「何が好きで、寝る度あんな奴等ばっかみなきゃなんないんだよ…」
呻きながら吐き出す。
忘れるなとでも言うのか。
呪縛のように自分にまとわりついて離れない。
同じ顔に同じ表情。
あぁ…みたいのはそんなモノでは無いのだ。
憎しみや濁った眼なんてみたくない。
なのに、見たい顔はいずれ忘れて逝くのか。
記憶の片っ端に薄く残るだけなのか。
明るくなった空を見ながら想う。
冷たい硝子窓をなぞりながら。
酷く甘くて優しかった…あの人の顔を。あの指を。あの声を。
夢でいいから…もう一度みたいのだ。
あの人を。
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