0人が本棚に入れています
本棚に追加
うさぎもかえるも羊も山羊もみんな眠ってしまったように静かな川岸に沿うように。灰色アスファルトの街の切れ目に薄茶化た服の人一人。黙って歩いている。
「明るかった電灯も、いつしか灯が消えたようだ、目を閉じていても開いていても、変わらない。どこまでも真っ暗だ。僕はどうしたらいいんだろう。これから何をしたらいいんだろう」
薄明かるい路地を行くとぼやけた表通りが見えた。
「家族連れだ、いいなあ、幸せそうだなあ」
「そうなの明日は私の誕生日なの」
「女の子が跳び跳ねてる、かわいいなあ、羨ましいなあ。ああ僕は何をしてたんだろう、あれぐらいの子なら、いつも直ぐ近くにいたのに。僕は何を浮かれていたんだろう。どうして何もしなかったんだ」
「あら、独り言かしら。どうなさったの?あなた?」
「やめろ、近づいてくるぞ。幸せそうな顔で、どうしたんだこの子は。あ、ああ、大丈夫だよ、あはは。いや、本当はちっとも平静じゃいられないんだが」
「あなたはかわいそうな人、おかしな人。そんなよれよれの服を着て、一人ぼっちで真っ暗な路地にいる、寂しくないの?」
「そんな感情はとっくに擦りきれてしまったようだよ」
「お腹が減ったの?」
「ああ、コンビニのお菓子を思い出すよ。安いのいくらだっけな。十円あったら買えるかな」
「ねぇみすぼらしい、しっかりしなさいな。ちょっとアンタ」
「わああああお願いだから責めないでくれぇ、責めないで。こうしかしようがないんだ。これ以上は無理なんだ。今が精一杯なんだ。」
「耳なんか塞いで座り込んで、本当におかしいのかしら、ちょっと声をかけた、だけなのに」
「ねえ教えてくれよ、僕はどうしたらいいんだ。これからどうすりゃいいんだ」
「そんなこと知るわけないじゃない全く呆れた甘えんぼね」
「違うんだ、あそこに橋があるんだが、あれを作った人がいい加減だった訳じゃない。設計図だってきっちりしていた。それなのにあの橋は完成しなかった。誰が悪いわけでもない。オレはオレでやることを必死でやってきた。誰かに甘えることなどしなかった。」
「どうかしら運が悪かったとか、言い訳」
「誰でもこうなりうるんだ。たとえ君でも。十円あったらくれないか。根性論じゃないんです。こういう世の中なんです。もう歩くのもいっぱいいっぱいです。前向くだけでいっぱいです」
最初のコメントを投稿しよう!