8人が本棚に入れています
本棚に追加
照子(てるこ)さんに手紙を出して数日が経っていた。
変わり者のおじさんの家は人里離れていて、女の子が一人で来るようなところではないのも承知の上で手紙を書いたのだ。だから、返事が来ないことにも、彼女の顔を見ることも出来ないのにも落ち込んだりはしていない。
僕には町に住めない理由がある。当然、照子さんを見掛けたのも一度きり。もし、町に姿を隠さずに行ったなら「非国民」だと言われるよりもっとひどいことをされ、石が飛んでくるだろう。
どちらにしろ、僕には町で生きるという選択は酷すぎる。
「おい、アキ。なんか考えてんのか。朝からくらいぞ」
新聞を片手に持ったおじさんが僕に話し掛けてきた。
おじさんは僕をアキと呼ぶ。外国だと仲の良い家族は愛称(ニックネーム)で呼ぶらしい。
ここは彼が自ら大工仕事をして作ったボロ小…庵だ。庵の前には畑があって今は大量のカボチャが植えられている。
おじさんは国民服を赤く着色した服を着ており、その服を見ただけで町の人たちは彼を「非国民」だと言う。このご時世に服の色なんかにこだわる余裕があるおじさんを他の人たちが嫉妬しているからかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!