手紙

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僕はおじさんが手に持っている新聞に目をやりながら言う。 「なんて書かれているの」 昭和十九年九月二日と書かれた新聞を見ながら、彼は声高々と内容を読み上げた。 「いつもと同じだ。日本優勢。日本戦闘機が敵爆撃機、及び戦闘機を粉砕。勝利は目前。だとよ」 「……今日って何日だった?」 おじさんはぼさぼさの黒髪をがしがしと掻きながら、わざとらしく茶化すように言った。 「お前の歳で日にちがわからなくなるっていうのはまずいと思うぞ。お前、自分の名前分かるか? 俺が誰だか分かるか?」 「今日は九月九日だろ。いつの新聞だよ、それ」 「良かった。まだ痴呆になったわけじゃないみたいだな。安心した。お前のことは息子だと思っているが下の世話はしたくないからな」 おじさんの言葉にムッとしながらも、新聞の日付に目をやる。視線に気が付いたのか彼は新聞を見やると軽い口調で言った。
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