ときめきってこんなだっけ?

8/23
前へ
/82ページ
次へ
ふっと彼が顔を上げた。 思わず目を逸らす。 彼はその本を持ってレジに向かう。 私はまたその後ろ姿を見つめてしまっていた。 我に帰り「何やってんだか…」自嘲気味に笑ってしまった。 雑誌を持ってレジに行き本屋を後にした。 食材を買おうと食料品売場へと向かう。 忙しいながらも出来るだけ自炊を心掛けている。料理は好きだ。気分転換にもなる。出来るときには作り置きしたり、時間のかかる物もまたには作る。 食べさせる相手はいないけど… 食料品売場を一通り見て回るのが好きだ。ちょうどスパイス売場に近づいた。 「オレガノ切れてたな」と思い出した。 スパイスが並ぶ棚の前で座り込む人影が見えた。 近くなると ドキッと胸がした。 さっきの本屋の彼だった。 一生懸命ラベルを見ながら探している。 私は彼の隣に立つと 「何をお探しですか?」 声をかけていた。 はっ‼として彼が顔を上げる。 「ナツメグってどれでしょうか…」 はにかんだような 苦笑いするような笑顔を浮かべる。 私はニコりと微笑みながら 「これですね!」と 彼の右手に小さな小瓶を渡す。 「ありがとうございます」 爽やかな笑顔… 胸の奥でくすぐったいような キュンとするような感じがした。 いつもなら見知らぬ人に自分から声をかけるなんて事ない。 ましてやこの年代の男の人なんて一番関わることがない。 なのに私の中でなにかが動いた。興味が湧いたのか、声をかけた。 「何に使われるんですか?」 「ハンバーグです。 実は初めて作るんですが、料理の本に載っていたので…」 彼は小脇に抱えた本屋の袋を指差した。 「そうなんですね オールスパイスでもいいですよ!ナツメグも入ってブレンドされてますから」 「そうなんですか?ありがとうございます。 料理お得意なんですね~」 爽やかな笑顔… 「好きですが、上手じゃないです」 年甲斐もなく赤くなってしまった。 いたたまれなくなった私は「それじゃ…」と その場を立ち去った。 「ありがとうございました」 再び彼がお礼を言ってくれた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加