37人が本棚に入れています
本棚に追加
ふっと彼が顔を上げた。
思わず目を逸らす。
彼はその本を持ってレジに向かう。
私はまたその後ろ姿を見つめてしまっていた。
我に帰り「何やってんだか…」自嘲気味に笑ってしまった。
雑誌を持ってレジに行き本屋を後にした。
食材を買おうと食料品売場へと向かう。
忙しいながらも出来るだけ自炊を心掛けている。料理は好きだ。気分転換にもなる。出来るときには作り置きしたり、時間のかかる物もまたには作る。
食べさせる相手はいないけど…
食料品売場を一通り見て回るのが好きだ。ちょうどスパイス売場に近づいた。
「オレガノ切れてたな」と思い出した。
スパイスが並ぶ棚の前で座り込む人影が見えた。
近くなると ドキッと胸がした。
さっきの本屋の彼だった。
一生懸命ラベルを見ながら探している。
私は彼の隣に立つと
「何をお探しですか?」
声をかけていた。
はっ‼として彼が顔を上げる。
「ナツメグってどれでしょうか…」
はにかんだような 苦笑いするような笑顔を浮かべる。
私はニコりと微笑みながら
「これですね!」と
彼の右手に小さな小瓶を渡す。
「ありがとうございます」
爽やかな笑顔…
胸の奥でくすぐったいような キュンとするような感じがした。
いつもなら見知らぬ人に自分から声をかけるなんて事ない。
ましてやこの年代の男の人なんて一番関わることがない。
なのに私の中でなにかが動いた。興味が湧いたのか、声をかけた。
「何に使われるんですか?」
「ハンバーグです。
実は初めて作るんですが、料理の本に載っていたので…」
彼は小脇に抱えた本屋の袋を指差した。
「そうなんですね
オールスパイスでもいいですよ!ナツメグも入ってブレンドされてますから」
「そうなんですか?ありがとうございます。 料理お得意なんですね~」
爽やかな笑顔…
「好きですが、上手じゃないです」
年甲斐もなく赤くなってしまった。
いたたまれなくなった私は「それじゃ…」と その場を立ち去った。
「ありがとうございました」
再び彼がお礼を言ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!