『南国』 聡美と出会うまで

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 3月2日──。  那覇空港に降り立つと、濃い空気が全身を覆った。東京とは明らかに違う春の気配が、ほんのりと香る南国の匂いと共に漂っていた。 「お疲れ様です。揺れませんでしたか?」  預けていた荷物を受け取り、到着ロビーを出たところで声を掛けられた。  白いスリーピースのスーツを着た、初老の男性。オキナワでも歴史のあるリゾートホテルで広報室長をしている仲宗根さんだ。  5泊6日の今回の沖縄旅行は、リゾートホテルのWEBサイト制作の納品をするということが、主目的だった。  通常、WEB制作の納品といえば、わざわざ遠方のクライアントのところへ出向いて行うということは滅多にない。  決められた納期までに、決められた仕様通りのものを制作し、サーバへアップロードをする。それが一般的な流れだ。  今回、わざわざ俺がオキナワまで出向いたのには、会社の社長からの慰労の意味が濃かった。  約1千万円という巨額なプロジェクトを任され、滞りなく完了させた俺へ、 「思いっきりハメを外してこい!」  と、20万円のボーナスと共に背中を叩いて送り出してくれたのだ。
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