『南国』 聡美と出会うまで

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「この度は本当にありがとうございました」  出迎えのBMWのステアリングを握りながら、仲宗根さんが微笑む。 「こう言っては失礼ですが…東京のデザイン会社様でしたので、距離が離れてますでしょ? だから、本当に希望するものができるかどうか不安だった部分もあったのです」  今回の案件は、九州の大手制作会社と、東京のうちの会社とのコンペだった。  結局、デザイン力で勝っていたうちが案件を獲得できたのだが、東京と沖縄という遠隔地同士のために、意思の疎通や共通認識において苦労することも少なくはなかった。  しかし、仲宗根氏と俺とで、それこそ2時間に1度は電話で密に打ち合わせと確認を繰り返すことで、なんとかゴールまで辿り着いたのだった。 「こちらこそ、ありがとうございます」  俺はかけていたサングラスを外し、仲宗根氏へ頭を下げた。 「仲宗根さんのご尽力がなければ、絶対に不可能なプロジェクトでした…本当に心から感謝します」 「こうして吉川さんと直接お会いするのは、実はまだ今回で2度目なんですよね。 でも、この半年間、毎日電話やメール、Skypeなどでやりとりしてきたので、まったくそんな気がしません」  仲宗根さんが微笑む。年齢はお聞きしていなかったが、日に焼けた顔に白い歯がとても印象的な素敵なお顔だ。60歳にはまだ届いていないだろう。  ツラく、苦しい半年間だったが、共に戦ってきた仲宗根さんの、心からの笑顔を見ると、その苦労も吹っ飛んだ。
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