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季節が冬から春に移り、高くなっていた日もとうに暮れた夜の11時。日付は春になったとはいえ夜にもなればやはり肌寒く、昼のままの格好でいたので少し応えた。
待ち合わせをしていた桜の下。から変えてもらった校門で俺は待っていた。
『来週にはもう、この桜は芽吹いてしまうみたいね。…………さぁ足利(あしかが)君、春に交わした答えを聞かしてもらうわよ、世界の終わりを回避する手だてをここでね』
俺の名前を呼ぶ時僅かながらも名残惜しそうに、同時に悔やむような顔をしていた君は、期限の日を今日に決めた。
こっちを見ていた瞳には希望も期待も込められていなくて、ただ悲しみと落胆と心残りが入り混じっていた。
始まりがあるから終わりがある、期限があるから終わりがある。
だから仕方がないのだと、諦めきれない気持ちで諦めた君がそこにいたから。
俺は仕掛けた。考えついた事を、君が怒るのかも嬉むのかも分からない事を、出来る限りの事はやった。後は、ここに来てくれるのを待つだけだ。
クタクタの体で待つ事数分。月下に照らされる漆黒の長髪を揺らしながら、制服姿で高校生らしからぬ平坦な胸を張りながら、遅れて来た事を悪びれもせぬいつもの顔で。
「人に平等に与えられたものは寿命と死。それは生きている期限と生物の終わりを表しているの。期限と終わりというのは人に取って立ち切れない決まり事で、私達の間にも決まり事があったわね。
さぁ、約束を果たしてもらえるかしら」
挨拶もせぬまま、感情を殺し切ったような表情をしていつもの口癖を告げてくる。
俺と君が交わした約束。
世界の終わり'グラフォール'。世界の滅亡の危機だとか、生物が全て亡きものになる大厄災だとか、ともかく回避しなければ明日がない危機だとは聞いている。
それを回避する手だてを、校庭に咲く記念樹の桜が芽吹くまでに見つけろと、君に出会った時に交わされた約束。
この約束を果たすべく、こうして俺達は夜の校門の前で会っているのだ。
「交わした約束を果たしてもらおうか。ねぇ……いきなり本題っていうのは何か感慨深い物が無くていけないな」
「感慨深く無くても良いの。変に着飾ろうとしてしまえばその分、去り際は悲しくなるものよ。それこそ後を引いてしまうくらいにね。
こういう時は感情が無く機械みたいに会話する方が良いのよ」
そう、君は俺の愚痴に返すが。
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