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「それは間違っていると思うんだがな。君も俺も人間で、期限と終わりと共に意志も人権も感情も与えられているんだ。
なら機械みたいに振る舞わず、人間らしく感情を持って語り会うべきだろう」
「勘違いしているみたいだから言うけど、私は世界の終わりの時にいた人間の情報を元に構築された存在よ。
人間ではないのに、人間らしく感情で会話しろなんて無理な注文だわ」
これも何度も言われたな。母胎から生まれていない私は1つの生命体ではあるが、人間という生物ではないと。人間の形をした化け物がいい所だと。
「そう言うなら、花火の綺麗さを楽しんでいたりフォークダンスで手を握る時恥ずかしがったり、初日の出に感嘆していたり、あの感情はどうしたんだ?
喜怒哀楽や恥や、気遣いや優しさを持っているのなら君も人間だろ」
「人間らしく振る舞っていただけで私は人間ではないの、だからそこを勘違いしてもらっては困るのよ。
抑止力の存在を決して人間の輪の中には入れないで、悲しむのは貴方の方なのよ」
悲しむのが俺だからこそ、君は気遣って悲しまないように配慮してくれている。人間の輪の外の化け物なのだからと、感情移入しないように警告していた。
けれど、そんな優しさを持つ君があまりにも人間らしく感じられて、とてもじゃないが輪の外に出す事など出来やしない。
だって君が。
「今日が終われば私の役目も終わり、約束を果たすが果たすまいが与えられた期限が終わる。……消え行く存在に感情を向けて欲しくはないもの」
困りながらも悲しみながら、感情も殺せずに瞳を潤しながら言うもんだから。輪の外になんか出せるものか。
俺の心は決まった。いや、決まっていた心が更に堅固なものになった。
今日が終われば消える君を、決して消させたりなんかしない。
感情を漏らした君が瞳を拭い、人間から機械――――抑止力の存在へと切り替えてから本題を問う。
「足利君、教えて。世界の終わりを回避する手だては見つけられたのかしら?」
この一年間、探し続けて来た答え。
君との別れを惜しみ、見つける為に努力してきた答え。
君とまだ過ごしたいから、諦めはしなかった答え。
だけど。
「いいや、頑張ってみたけど見つけられなかったよ」
嘘偽り無く、正直な結果を伝えた。
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