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「嘘……こんなのって……」
枝を全て苅られ取られた丸坊主の桜を見上げて、信じたくないと譫言(うわごと)を上げていて。
追い付いた俺が、目の前の事が事実であると教えてやる。
「日用雑貨店で買った800円のノコギリで全部切ってやった。ほら、そこにあるゴミ袋の中にあるのが枝な、夕方からやってまさか5時間も掛かるとは思ってみなかったがな。
で、霧桐。さっきの質問に答えてもらえないか」
声を掛けられて振り向くその顔、呆気に取られてまだ正気に戻っていなくて、だからもう一度聞いてやる。
「期限の終わりである芽吹く芽が無いって時は、約束の期限っていつになるんだ?」
約束はこの桜が芽吹くまでの間に答えを見つける事、それを果たす果たすまいが帰る事。しかし、その期限である桜が芽吹けない状態であった時、果たして期限は明日なのか?
期限と終わりを重要視する君に取って、もう答えは出ているんだろ。だが口にしたくなくて、いいやして良いものか迷っているから。
困り果てた顔を下に向けて、ただただ黙るだけで何もしない。まるで、許されない望みを叱られたくないから言わないような子供みたいで。
「黙っていないで答えてくれないか。クタクタになりながらも俺は頑張ったんだぞ、答えて貰わなきゃ報われないぞ」
月夜とはいえほとんど暗闇の中、20年にも渡り植えられた桜の大木の枝、それを1本も余す事無く切り落として回収する作業がどれ程大変だったか。
その苦労が沈黙で終わってしまえば不満もある。だから、返答を求めれば。
君は、怒りの感情のままに俺に叫んだ。
「なんで――――なんでこんな事をしたのッ!! 確かに無茶難題を取り付けたのは自覚しているわ、でも足利君は約束を果たすかどうかだけで良かったのよ!
なのに、なんで――――なんであなたは、抑止力の私を生かそうと頑張ったの! 私なんか、放っておいてくれたら良かったのにッ!!」
下を向いたまま、頬から涙を垂らしたまま、抑止力である君は人間らしく感情を用いて激昂した。
消え行く定めの存在に、日常には相容れてはならない存在に何故こうしてまで手を差し伸べるのかと、君は俺に理由を聞く。
何故かって、それは。
「霧桐、君と別れたくない。それが枝を切った理由だよ」
着飾らない本心を、そのまま伝えた。
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