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「桜の枝がこれでは芽吹く芽も確かに無いわね。分かったわ足利君、期限は明日ではないし私は帰られない、貴方の望み通り私との日常を続けましょう。
――――って言えば満足なのかしら。全てが足利君の思い通りだから、なにか気に入らないわね」
「気に入らないわね。って、どういう意味だよ」
「言葉通り気に入らないわ。街案内も花火もフォークダンスも初日の出も、貴方と過ごした行事全てが貴方の思い通りだもの。唯一、私からした約束事も貴方の思い通りなったのだから、まるで私が足利君のいいようにされているみたいで気に入らない。
少しはこっちにも、結果の主導権くらい欲しいのよ」
まるで拗ねている女子のような、君らしくもない言葉を言ってくるのだから。
自然と笑みがこぼれ、俺は返す。
「なら、そっちからアプローチを掛けて俺を振り回したらどうだ? それなら、そっちが主導権を握ったまま終わらせられると思うけど」
「なら明日から手作り弁当を持参して貴方に渡したり、いきなり腕にしがみつきながら『ダーリン』なんて甘い声を出してみたり、下校時間に校門の前で胸を時めかせながら待っていようかしら」
「それは勘弁してくれ……そこまで振り回されたら俺、明日から学校に行きたくなくなるんだが」
「私もよ。軽く自殺したくなるわ。
まぁでも、足利君を困らせる為ならやってみない手はないわね」
本気でやりそうな目をしているから怖い。そんな事されたら本当に、恥ずかしさのあまり登校拒否しそうだ。
「そんな手は考えないでくれ。今でも結構困っているんだからよ」
「あら、朝お宅に訪問して目覚めのキス。とかの嫌がらせを考えていたのに、残念」
残念って……うわ、本当に残念がっているよ。んな事されたら恥ずかしさのあまりこっちが自殺したくなるぞ、まったく。
「……帰るわ。なんか一気に疲れた」
「疲れたのは良くないわね、桜の枝なんか張り切ってこんなに切るからいけないの、少しは体の事を考えなさい」
「疲れた原因は誰のせいだよ、誰の! まぁいい、ゴミ袋持って帰るわ」
桜の下に積んであった計4つの袋を担ぎ上げ、校庭を去ろうと校門を目指したら。
君は俺に、別れの挨拶をしてきた。
「またね足利君、また明日」
「あぁ、また明日な霧桐」
それは次に会う事が約束されている、自分達の間だけに出来た挨拶だった。
それが何よりも俺にとって嬉しかった。
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