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第1話 小さなきっかけ
「ふぁ、はぁー…」
窓から零れる日の光を浴びて、青年は眠気を含んだ欠伸を洩らしつつ、ベッドから起き上がった。
質素でも無ければ、豪華でも無い極々普通の部屋で、青年は寝間着から普段着に着替える。
草原の緑とも空の青とも言えぬ、鮮やかな蒼緑色の頭髪は寝癖で至る所が跳ねており、顔には依然として眠気が漂っている。
(このまま順調に稼げば、来月までには目標額を超えるな)
顔を洗い、跳ねた髪を櫛で少し雑に梳かし、歯を磨き、もう一度顔を心地よい冷水で洗い、タオルで拭きながら青年はそんな事を考えていた。
青年はいつもの様に柔らかいタオルで頭の水気を拭き取りつつ、階下にある店へ降りてゆく。
開店までの間、店先の掃き掃除と床のモップ掛けを済ませるのが日課だ。
普段と変わらぬ生活。しかし、今日は何か違和感を僅かに感じる。
(何か、いつもと違う…?)
青年は意に介さず、モップ掛けをする為、掃除用具を閉まってある戸棚に手を掛けようとした時、
「お腹…空い、た…」
「おわっ!?」
どこからか、声がした。いつもなら人がいないものだから、青年は驚いた。
さらに青年が辺りを見回し、声の主を見つけて言葉を失った。
店の床に女性がうずくまるように横たわっている―しかも、角の片隅で。
見たところ浮浪者ではなく、着ている服は至って普通なのだが‥
(何なんだ、この状況は…)
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