波紋

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父は幸せだったのだろうか… 私は父に愛されてたのだろうか… 萌子は 記憶の糸をたどっても 亡き父の 笑顔は 萌子の記憶には浮かばない。 思い出すのは父の背中をドアの隙間から 覗き混む 幼き自分だ。 もう 父の顔すら ハッキリと思い出せない。 唯一の思い出の本。 何度もせがんで読んでもらったお伽噺の 本だ。 萌子が今日 この部屋を訪れたのは 思い出の本を探す為だった。 「コン コン」 不意にドアをノックする音がした。 萌子が返事をする前にドアは勢いよく開いた。 「見つかったのか?」 「佳幸…ううん、まだ」 『村瀬 佳幸(ムラセ ヨシユキ)』 部屋を訪れたのは 萌子の婚約者の佳幸だった。 「そっかぁ 出直すか?」 「うん…そうする」 伏し目がちに答えた萌子の頭を クシャッとしながら 「んな顔すんな」 佳幸は笑いながらそう言った。
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