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鳴り続ける携帯をしばらく置いといて、留守電に切り替わるまで待って、切り替わってから携帯手にした。
直接出るのは嫌だった。
隣で「出ないの」「出れば」とはやし立てるお札がうるさかったが、出る気になれなかった。
やがて留守電も切れる。携帯の画面には着信有りの文字が表示された。
留守電を聞く。
声は、なにも、入っていなかった。
入っていたのは、沈黙と、息を吸う音。なにか言い出すように勢いよく息を吸ったかと思ったら、細く吐く音がした。
留守電が終わった。結局、なにが言いたかったんだろう。
ため息が漏れる。と、
「残念だったわね。期待してたのに」
紫式部だった。背中(というかお札の後ろ)に野口を隠し、私を見ている。口元に浮かぶ笑みが腹立たしい。
「なにが?」せめてもの威勢を見せるが、失敗した。
紫式部は全部知っている。
それに気づいたのは彼女が「あら」と勝ち誇ったように嘲笑したあとだった。
「期待してたんじゃないの?」
「期待? 私が?」
「“やっぱり考え直した。つきあって欲しい”って言われるの」
「それこそ出来すぎじゃない。馬鹿言わないで」
携帯を操作して留守電を消す。手が震えていたような気がするのは、生理的なものだろうか。
消す瞬間、位置からして、紫式部は見えていないはず。なのに、クスクスと笑われた。
睨む。
「お―こわこわ」
棒読みで紫式部が言い、顔を背ける。背中にいた野口がさらに動き、紫式部の後ろに隠れた。察するに相当な顔をしているのだろう。
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