Challenge 1 ― 逃げ出した花嫁 ―

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「もしもし、麗華? 私よ、杏樹。ねえ、今日家に泊めてくれない? え? 駄目なの? そう……私の家から連絡行ったんだ。分かった、じゃあいいわ。別に何でもない。ありがとう」  黄緑色の受話器を置いて、杏樹は溜め息をついた。 「麗華も駄目か……」  家を抜け出してから、もう五時間余り――  辺りはすっかり暗くなり、会社帰りの人たちで駅前の繁華街も賑わい始めた。  後を追って来た川口からは上手く逃げられたものの、何の計画もなく飛び出して来たため、杏樹は行き先もなく途方に暮れていた。 「あぁあ……やっぱり諦めて帰るしか無いのかな。もっとちゃんと計画立てなくちゃ駄目ね」  GPSで居場所がばれないようにと、携帯電話は家に残してアドレス帳だけを持って来た。  それを頼りに、今夜泊めてくれる友達を捜してあれから何人にも電話を掛けたが、みんな宮坂家から連絡が入っていて、既に内緒で泊めてもらえる状態では無くなっていたのだ。  杏樹は公衆電話から出ると、公園入り口の石に腰掛けて財布の中を覗いた。  貯めてあった小遣いを全部持って来たので、お金はまだ十分ある。  けれども、ホテルに泊まるわけには行かなかった。
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