Challenge 1 ― 逃げ出した花嫁 ―

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「助けて下さって、ありがとうございました」  しばらくして、やっと顔を上げた杏樹の視線は、男性のポケットから覗いていたピストルに釘付けになった。  数秒見つめてから二十センチ以上も上にある、男性の黒い瞳を見上げる。 「―― ああ、これ?」  男性は、微笑みながらそれを取り出して杏樹に見せた。 「撮影なんかで使うモデルガンだよ。良く出来ているだろう? これのおかげで空港で足止め食っちゃったけど、やっぱり持って来て良かったよ」 「そうなんですか。モデルガン……」  杏樹はホッとして気が抜けたのか、急にその場にしゃがみ込んだ。 「大丈夫?」 「ごめんなさい。何だか力が抜けちゃって――」  男性が杏樹の前にしゃがんでフッと笑う。 「早く家へ帰った方がいい。こんな所に一人でいると、また危ない目に遭うよ。駅前まで送ってあげるから」 「私――」 「何? どうかした?」 「私、家に帰れない……」  視線を合わさずに呟いた杏樹に、男性が問い掛ける。
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