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「ママ! 冗談はやめてよ!」
宮坂家の一人娘・杏樹は、拳を握り締めて大声を上げた。
「急に婚約者に会えなんて! その上、一ヶ月後に結婚ですって? 私はまだ高校二年生よ、十七歳になったばかりなのよ。早過ぎるわ!」
「何ですか杏樹。大声を出すなんて、はしたない」
「だってママがそんな事、突然言い出すから――」
宮坂杏樹は高校二年生。
五月生まれの十七歳。
色白の小さな顔に、クルクル良く動く大きな目。
高からず低からずのツンと尖った鼻。
良く引き締まった桜貝のような唇。
由緒正しい旧家である宮坂家のたった一人の娘として生まれた事以外は、ごく普通の女の子。
もちろん温室育ちのため、世間一般の『普通』とは少し違っていたが、口に手を当てて『オーホッホッホ……』なんて大笑いするような、そんな名ばかりのお嬢様でも無く、一言で言えば『純情可憐』がピッタリという感じだ。
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