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目の前のドアが開き、父に手を引かれ一歩ずつ雅晴の待つ祭壇の前に進んで行く。
真紅の絨毯の上、足を踏み出すたびに次々と思い出が浮かんでは消えた。
幼い頃の事、友人と過ごした日々。
そして―― 健人との事。
父から雅晴へと杏樹の手が移る。
健人――
杏樹は健人が何処かで自分を見ているような気がして、心の中で小さく健人の名を呼んだ。
「シンロウ、ニジョウインマサハルハ、ミヤサカアンジュヲツマトシテ――」
神父の良く通る澄んだ声が、シンと静まった礼拝堂の中に響き渡る。
「ヤメルトキモ、スコヤカナルトキモ――」
ステンドグラスを通して、明るい日差しが床の上に美しい模様を投げている。
「アイシツヅケルコトヲ、チカイマスカ?」
「誓います」
雅晴の声がした。
パイプオルガンの曲は、何処かで聞いた事があるものだ。
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