Challenge 1 ― 逃げ出した花嫁 ―

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 不満を口にした杏樹に、母の喜代子が静かに微笑む。 「仕方無いのよ杏樹。雅晴さんは今日帰国なさるものの、明日からはお忙しくて時間が取れないそうなの。ですから、一ヶ月後の結婚式までの間であなたが雅晴さんにお目に掛かれるのは、今日しか無いのですよ」  二条院雅晴は、二条院家と宮坂家の親同士が決めた杏樹の婚約者。  大学三年の二十一歳で、インターナショナルな感覚を身に付けるためという理由で、今はニューヨークへ留学中だ。  雅晴という婚約者がいる事は、以前から杏樹も知ってはいた。  しかし、幼い頃たった一度会っただけで、ただの親同士の口約束だと思っていたのだ。 「どうしてそんな急に結婚だなんて――」 「何でも今度、ニューヨークに二条院グループの新しい会社が出来るのだそうよ。それを雅晴さんが経営なさるのに―― ほら、独身では今一つ信用を得るのが難しいと言うでしょう?」  ごく一般的な理由を述べて、喜代子が微笑む。  何も心配していないという事がありありと分かる表情に、杏樹は小さく溜息を吐いた。
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