286人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
「でもどうしよう……このままじゃ、夕方には二条院家の思い通りにされちゃうわ。そして結婚――。ああ嫌だ! 何とかしなくちゃ」
しばらく動物園の熊のように左右への移動を繰り返した後、杏樹は覚悟を決めて頷いた。
クローゼットに入り、スポーツバッグに少しの着替えを詰め、学校のキャンプで一度身に着けただけのジーンズに着替えてテラスに出る。
それから持って来た避難用の縄梯子を手摺りの柱に縛り付け、スルスルと庭に下ろしてそれにしがみついた。
梯子を降り、急いで裏口の木戸に向かう。
その時、突然上の方で大きな声がした。
「杏樹!」
振り向くと、杏樹の部屋のテラスに喜代子の姿があった。
何か用を思い出して、再び杏樹の部屋を訪れたのだろう。
驚いて目を見張った杏樹が、声を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!