窓枠の中の曖昧な証言

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白い壁の中 今日も賑やかに時は流れる 今や 誰も誰も 知る由はないだろう 私ですら 全て理解したわけじゃない 愛するのは 物語と 無邪気な彼等 また愛するのは それらに埋もれた此処 四角い縁から見える春 最初の日 ―初めての来客があった。  不安と期待に瞳は揺れ、どこかぎこちな い青年であった。  付き纏う青い春。  ああ、やはり若さとは素晴らしい。  さあ開いてごらん、  ツルゲーネフ、初恋―。    幾度目かの日 ―彼も慣れてきたものだ。  揺れていた瞳は安定し、温かさすら浮か べているとは。  だがやはり付き纏う青い春。  ああ、ときに若さとは騒がしい。  君の救いになるだろうか、  中原忠也―。  最後の日 ―彼は疲れているようだ。  思い詰めた表情に眠れない色が張り付い ていた。  消え失せた青い春。  ああ、じつに若さとは恐ろしい。  開くことを止めはしないが、  太宰治、人間失格―。  彼は、 太宰の表紙を開いただろうか 以来、 彼をこの場所で見たことはない 何が彼を襲ったのか 私はそう問われたとしても 口を噤もう 誰も誰も 知る由はないだろう 私ですら 全て理解したわけじゃない     
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