弟と名乗る人物

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……浄水器を売りに来たにしては不自然すぎる。 このご時世に社員証も見せず、カタログも実物も持たずに、手ぶらで立っているだけ。 つまり、浄水器はとっさの出まかせだろう。 でも……何のために? 「浄水器は、ちょっと……うちでは必要ありませんから」 「そうですか」 イケメンは再びセールススマイルを浮かべると、真っ直ぐに私の目を見据え、軽く頭を下げた。 「では、今日はこれで失礼します。またうかがいますので、その時はよろしくお願いします」 奴はそう告げて、あっさり帰って行った。 たった一つ、疑惑を残して。
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