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でも歳三は帰って来なかった。
「即死だったって?もう…なにやってんのよ。」
――グスッ
前の事なのに結局涙は止まらない。
祝言を上げる前から未亡人にするんじゃないわよ。
と悪態付くが返事が帰ってくる訳がない。
最期を見る事は叶わなかった。
それどころか、正直な所遺体さえ何処なのか明確には知らされてない。
「母様ぁずっと誰と話してるの?」
と私の可愛い娘が尋ねてきた。
「あなたの父様よ。」
「父様ぁ?」
そう、最後の最後まで自分の誠を貫いた格好良い父様。
「母様ぁ、父様ってどんな人?」
私の横にちょこんと座り、同じ桜を見上げながら聞く。
「桜みたいに人を惹き付ける人よ。綺麗な顔のくせに眉間に皺がいっつもあって怖くて、苦労人で、誰よりも優しい人よ。」
悲報が来た時は正直命を絶とうと思った時もあったけど、この子を見て生きようと思った。
この子が私の生きる理由。
あなたとの大事な愛の証だもの。
旧幕府軍が降伏して、新政府軍が勝利して時代は変わった。
市民は平等になったし、文化も変わった。
そして、武士は日本から消えた。
きっと歳は武士でいることを選んだのね。
あなたは武家の生まれじゃないから…誰より武士になることを望んでたね。
そんな自分の信念を曲げない歳が好きだけど。
やっぱり寂しいよ。
――ビュオォォオッッ
そう弱気になった刹那、花弁を纏った風が吹き抜けた。
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