醒めた夢

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驚愕だった。 名族松平家の側近の御息女の貴女様と数ある中の只の浪士でしかない。そんな俺達が恋仲になれたのは奇跡だと思っているのに接吻など…。 「し、しかし姫様。貴女と接吻するとなったら俺は貴女の父上を裏切る事になる。今後どのよう顔して父上と会えば…」 「一様、知らない顔をすればいいんです。今此処には誰もいない。私とあなたが他言しなければ分かりませぬ。」 うふふ、と無邪気な顔の姫様はいつもと変わらないが、しかし、大罪を犯すような気分になり中々頷けない。 ガサッと音と共に姫様は足を地に付け頭を下げていた。 何をっ… 「一様、そのままお聞き下さい。私は明日の夕刻にはこの地を出ます。添い遂げるからにはあの方に誠心誠意尽くすつもりですが、まだ恋や愛を知らない不幸な姫に情で構いませんのでどうか一時の夢をお見せ下さい。」 こんな事をさせてしまってはしない訳に行かなかった。 「では、姫様目を閉じて下さい。」 姫様を立たせ頬に手を添える。 「待って、姫様って言わないで、敬語も使わないで。」 上目で頼み込む姫様に反論はできない。 「奈津…目を閉じてくれ。」 閉じた奈津に顔を近づける。 目から流れる物が何か俺は知らない。 ―――もうこの小さな身体を抱きしめられない。 ―――この可愛らしい顔を見ることもできない。 全て、全て他の男の物になる。 醜い嫉妬と劣等感を纏ったまま、震える口付けをした。 .
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