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『…鬼道ちゃん?』
ゴーグルの下の赤い目が不安定に揺れている。
餌を欲しがる金魚のように口をぱくぱく開閉させ、頬は薄っすら紅色に染まって。
『鬼道ちゃーん』
握り締めた手はひたすら熱くて。
『…な、に…すっ…!』
漸く放った言葉はそれ。
『キスした』
真実をあるがままに返せば、赤い顔がさらに赤くなった。
ああ、なんかトマトみたい。
トマトは嫌いだけど鬼道ちゃんみたいに可愛いトマトなら食べちゃいたいな。
『手!離せ!』
ニヤニヤしてしまったのが気に入らなかったのか、(俺が一方的に)握り締めている手をぶんぶん振り回す。
それでも俺は離さない。
『やだね。離したら逃げるだろ』
『あ、あたりまえだ!』
『じゃあ、やっぱり嫌だ』
『はっ…離せ!離せ離せ!』
『うっせーなぁ』
ぐ、と顔を近付ければ鬼道ちゃんが後ずさる。
それに苛ついて、また一歩近付いた。
そしてまた後ずさる。
『逃げんなよ』
地球は丸いと言えど、壁に遮られているわけで。
あっという間に壁へ追い詰めることが出来た。
片手で壁に手を付き、本格的に逃がさないようにする。
鬼道ちゃんは情けなくオロオロしていて、ああ、こんな顔も出来るんだと思うと自然に頬が緩んでしまう。
『わ、笑うな!』
『鬼道ちゃん可愛い』
『かっ…』
『もう一回』
『やめろ!』
直前で顔を背けられ、意図せず頬に口づける事になった。
それでも鬼道ちゃんは『ん、』と小さく声を漏らす。
『避けんなこら』
『…不動』
『あ?』
『お…俺のこと…好き、なのか?』
『好き』
『!』
『って言ったらキスしていい?』
『っ…駄目だ!』
『ちっ』
仕方なく鬼道ちゃんから離れる。
ずっと掴んでいた鬼道ちゃんの手首には跡が付いていて、少し強く掴みすぎたと心の中で反省。
解放された鬼道ちゃんはその場に立ったままだ。
『不動』
『ん?』
ちゅ
『…え?』
頬に柔らかいものが触れた感触。
それは、間違いなく、
『鬼道ちゃ、』
『俺のことを好きなら、続きしてやる』
顔を真っ赤にしながら不敵に笑みを象る、あの唇。
『…ああ、』
手を伸ばし、邪魔なゴーグルを持ち上げた。
赤い瞳は揺れず、真っ直ぐ俺を見つめている。
好きだ、と、耳元で囁いた。
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