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『…あっ!』
『鬼道さん!』
『あらら、ごめんね鬼道クン?』
そう言って不動はニヤリと笑った。
『……』
足をかけられ転びかけた俺は、佐久間に受け止められる。
彼を睨みつけ、口を開こうとする前に佐久間が不動に噛み付いた。
『不動!鬼道さんが転んで怪我でもしたら、どう責任をとるつもりだ!』
こいつは何故俺を抱きしめているんだ。
あまり見ることのない佐久間の本気で怒る顔をこっそり見上げる。
目だけで殺せるんじゃないかというほど、憎しみを燃え上がらせた色。
『傷物になったら?…ちゃーんと責任とって結婚してやるよ、鬼道クン』
くつくつと喉で笑い、白い指で俺の額を突いてきた。
少し腰を曲げた不動の視線は同じ位置にあり、いやに顔が近くて怯んでしまう。
『…結婚?』
『そう。ここに綺麗な指輪はめてやる』
妙に優しく手をとられ、薬指に口づけを落とされた。
『触るな!』
思考が追いつかず、ぽかんとしていると佐久間が不動の手を叩き落として俺を強く抱きしめてくる。
ぐぇ、と情けない声が出た。
『鬼道クンは嫌がってないじゃん。なに、彼氏気取り?だっせぇ』
『うるさい黙れ。行きましょう鬼道さん!早く手を洗わないと腐る!』
『さ、くま』
『おーおー酷いねー』
『不動、』
『またな鬼道クン』
いやらしい笑みを張り付けたまま、不動はふざけたように手を振っていた。
『なんだ、なんなんだ、あいつは!俺の鬼道さんに何て事を!』
俺はお前の物じゃないぞ、佐久間。
そう思ったけど口に出さず心に留めておく。
薬指が、やけに熱く感じた。
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