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『あなたの赤い後ろ姿が大好きだったんです』
悲しそうに目を伏せながら、彼はそう言った。
僅かばかりの微笑みは自嘲のように見えて、そんな顔をさせているのは俺だと思うと胸がつきんと痛む。
『高貴で汚れのない、ただひたすらに前だけを見つめるあなたが』
『…佐久間』
『大好きだったん、で、す…』
左目からぽろぽろ涙が零れ冷たい地面に染み込んでいく。
拭うこともせず、止めることもせず。
『あなた、は、遠くて、でも、俺は、あなたがいる、だけ、で、幸せ…でっ、』
そうして唇を噛む、切れたのか、一筋血が垂れていた。
『だけどっ…あなたは…、』
俺まで涙が出てきてしまう。
じわりじわりと視界が霞んで、ゴーグルの中はさながら水槽。
『…どうし、て、俺を、帝国を、捨て、て、行くんです、かっ…!』
みっともなく足元に縋り付く彼。
返す言葉が見つからない俺は黙って空を見上げていた。
『捨てないでよぉ…鬼道さんっ…諦めるの、出来ないん、です…好き、なんです…』
雲一つない空は高く、青く澄み切っている。
風が俺のマントを悪戯に靡かせた。
青がはためく。
赤の面影はもう、ない。
『…すまない、佐久間』
『きど、さっ…』
『すまない』
『あ…、あぁああぁっ…あああぁぁあぁああぁ!!』
きっと明日も晴れるだろう。
だって、空はこんなにも青く、美しい。
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