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……幼い頃からこの場所に、毎年のように訪れた。 父は一眼レフを首から提げ、肩には三脚を担いで。 母はその手にお弁当を抱えて。 私は両手に一つづつ、犬の散歩紐を持って。 白くて小さな私の相棒達は 他の犬と遭遇しようものならば、見境なく吠え声をあげていた。 綿毛が飛び跳ねているかのような、愛らしい相棒達。 満開の桜の木の下で、父にたくさん写真を撮ってもらったものだ。 そして家のリビングには、毎年一つづつ、写真立てが増えていった。 写真の中の家族は、どれも桜の下で笑っている。 私がいつしか母より大きくなったことと 母の髪が少し白くなったこと、父の髪が徐々に後退していったことぐらいしか、そこに違いはない。 ……ただ、この写真はある年を境に、一枚も増えなくなった。 私が家を出た年からだ。
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