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足が震えた。
私は立ちすくむ。
「……春子、春子なの?」
細くて鈴のような母の声に誘われて、私は再び足を進める。
「……お母さん!!」
姿をとらえた瞬間、涙が溢れた。
お母さん、お母さん。
あの美しかった母の顔には、無数の皺がある。
黒くて艶やかだった髪は、今では短くて白く、輝きを失っている。
小柄だった身体はますます小さく、折れそうに細い肩が痛々しい。
「……お帰りなさい、春子……」
そう言って微笑む瞳だけが、昔のままの母のものだった。
「ごめんね……、ごめんね、お母さん」
「もういいの。全部忘れたわ。
ただあなたに会えたことが、嬉しい……春子」
「……桜なの。
桜が、私をようやくここまで導いてくれたの。
お母さんの、大好きな花……」
「そう。そうなの……」
私たちは、空白の時間を全て埋めるかのように
長いこと、抱き合っていた。
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