つき

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月の位置は、もう高い。 夜になると、この辺り一帯は 闇と、そして霧に包まれる。 今日のような細い三日月の明かりなど 闇を切り裂くのにはいささか力不足であるだろう。 静寂が支配するその空間には、朽ちかけた城がそびえ立っている。 城主は、この地域の住民たちからひどく恐れられているばかりか 誰もがその城の名を耳にすると顔色を変え、忌み嫌っていた。 村から城へ行くには、暗くて深い、霧の森を抜けなければならない。 うっかりこの森に迷い込んだ若い娘で、これまでに生きて戻った者は ひとりとしていなかった。 『人食い城主』 ……噂は噂を呼ぶ。 城全体を取り囲む、いばらの下には 今まで森で迷った娘達の亡骸が埋められているとか。 満月の夜、これまでに城が吸った血が、月光に照らされて 真っ赤な血で塗り固められた、紅い城が正体を現すんだとか。
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