つき

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カツーン、カツーン。 城の中、静寂の中に高らかに響き渡る足音があった。 真っ黒な毛皮のジャケットを身に纏った、長身の人物。 この城の主である。 人のかたちはしているが 闇に遊び、霧に紛れて生きる『それ』は この世の者ではない空気を纏っている。 がちゃり…… 真鍮で出来た装飾扉がゆっくりと開いた。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 並の者が聞いたらぞっとするほど抑揚のない低音で、中から人が『それ』を招き入れる。 「今宵はいかがでございました」 執事のような問いかけをする男だが、やはりその声には生気が全くと言ってよいほど感じられない。 『それ』は ひどくしゃがれた声で、ゆっくりと言葉を発した。 「変わりはない。 それより…… あいつはどうしている」
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