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娘はそれを聞くと、最後の力を振り絞って部屋からの逃走を試みた。
言うまでもなく、それは無駄な抵抗に終わる。
背後から腰を捕らわれ、薄緑の手が彼女の喉に伸びて止まった。
少しでも動けば、このまま鋭い爪で、喉をかき切られそうだ。
娘はおそるおそる、目だけを動かして敵を見た。
ちょうど窓から細い月光が届き
照らし出された彼の全貌を、最期にしっかりと見ておかなければと
不意に思ったからであった。
「嘘……」
思わず娘は呟いていた。
月明かりを浴びた『それ』は
醜い緑色の物の怪などでは、なかった。
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