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「だったらどうだと言うのだ」
『それ』は言った。
しかし、喉に立てていたはずの鋭い爪は
今は宙を掴んでいた。
「……今、初めて、躊躇いを感じたわ。
あなた、人間なのよね」
一抹の希望を見いだしたかのように、必死に
娘は彼を窓辺へと連れて行った。
再び姿を現した三日月が、光を零す。
彼を再び、人間の姿に見ることが出来た。
「意味のないことだ……。
俺はもう、おまえの生き血なしには生きられぬ身体だ。
月光に映るかつての姿は、今やただの幻でしかない」
「いいえ」
娘は言った。
「あなた、瞳の優しさは消えていないわ」
「やめろ」
娘の言葉を強く否定し、『それ』はその場にうずくまった。
「……あなたに私は殺せない」
彼女は畳みかけるように言った。
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