8人が本棚に入れています
本棚に追加
娘は大きく息を吸い込み、ひとつ深呼吸した。
そして、静寂の森の中へと駆けだした。
一度走り出した足は止まることなく、徐々に加速し
彼女はただ夢中で、必死に走り続けた……。
音もなく開いたはずの扉は
無情なほどに冷たい音を立てて閉ざされた。
『それ』は頭を抱え、
まだ今も脈打ち続ける己の身体を切り裂くような、絶望に満ちた声で叫んだ。
何もかもが消え去り、今、ただ
形容しがたい苦しみと、脈打つこの身体だけが残ったのだ。
彼は狂ったように喚いた。
……彼の心は、ずっと乾ききっていた。
そこへ今、一滴の水が、天から降ってきたのだ。
彼女によって、心が再生していく。
「もう、何もいらない……。
全て、あのひとに捧げても、構うものか……。
俺の、命さえも……」
最初のコメントを投稿しよう!