つき

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身を焼き尽くすほどの感情に出会ったことを、彼は心のどこかで 幸運に思っていた。 月の光が、回廊の窓から静かに差し込んでいた。 執事はどこへ消えたのだろう。 その場は完全な静寂が支配していた。 彼は、低い声で笑うと ただじっと、月を見ていた。 もう、彼は、孤独な怪物ではなかった。 外見はどうであれ、息づいた鼓動は確かに動き 流れる血潮は、赤いものに違いなかった。 ……人として、死ねる。 彼は月の下に、立っていた。 いつまでも、いつまでも 立ちつくしていた。
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