孤高の鴉

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大樹は一度下がって軽く息を吐いた。 刀を左手に持ち変え、痺れた右手を振る。 「皇帝、僕が変わろうか?」 光輝がそう言ってきたが、大樹は首を左右に振った。 光輝が戦っても負けるとは思わないが、それでも勝負の行方は際どくなるだろう。 光輝は大樹も認める程の力を持ってはいるが、光輝は恐らく彼を、孝弘を殺してしまう。 殺すぐらいの覚悟で戦わないと、勝てないからだ。 魔物を殺すのと、人を殺すのは全く違う。 必ずそれは後を付いて回る。 だから、大樹は光輝に人を殺して欲しくはなかった。 「俺がやるよ。心配しなくても負けねーよ。俺は世界最強の皇帝だからな。」 再び刀を右手に持ち変え、左手の人差し指で刃を撫でた。 「いくぞ!!」 刀を神速にも劣らないスピードで振り、刃からは黒い炎の衝撃波が出た。 「黒炎衝」 孝弘は衝撃波に拳をぶつけようとしたが、本能的に危険を感じとって避けた。 「避けたのか。相殺しようとしたら腕一本無くなってたのにな。」 大樹は再び人差し指で刃を撫でたが、孝弘の姿を見失った。 大樹自身、見失うような油断をしたつもりはない。 ここにきて、孝弘のスピードが上がったのだろう。 「そこか!!」 だだ漏れの殺気を感じてその場所に黒炎衝を放ったが、孝弘は紙一重で躱した。 「チッ!!」 孝弘が眼前に迫り、大樹は孝弘の右肩から刀を振り下ろした。 だが、それすらも紙一重で躱される。 「オラッ!!」 孝弘は刀を躱した動きで流れるように体を捻り、大樹の肋を孝弘の回し蹴りが捉えた。 「があっ!!」 大樹の体は吹っ飛び、回りにあった岩山に突っ込んだ。 轟音を立てて崩れ落ちる岩山に埋まったが、次の瞬間には黒い炎柱が立ち上った。 爆発し、爆煙から大樹がゆっくり出てくると口から血が零れていた。 「肋が二本ぐらい砕けてやがる。いい一撃だったぞ?」 大樹は血を吐き出すと、大きく息を吐いた。 「合格だ。俺も本気になってやる。いいもん貰っちまったら、礼しないとな。」 そう言った大樹の体は光を帯び、次の瞬間には体を覆い尽くせるような……―― ――……黒く燃え盛る漆黒の翼が生えた。
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