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ことり、と目の前にコーヒーが置かれる。
不動の前には甘い香りのココア。
『…なんだよ、その目は』
『いや、可愛いな』
『ちっ』
一瞬白い頬が色付いたが、照れた顔を隠すように煽ったココアのカップで見えなくなった。
というか、そんな一気に熱い物を飲んだら…。
『……』
不動が俯いてぷるぷるしている。
ああやはり、相当熱かっただろうに。
『お前は頭が良くないな』
『うるへぇ…』
口元を押さえ涙目になりながら睨み上げられ、不覚にも胸がきゅんと鳴く。
『火傷したか?』
顎を持ち上げて口を開かせ中を覗いた。
『ひゃわんは!』
『何を言ってるか分からん』
『っ…』
『舐めれば治るか?』
『!』
カップが置いてあるテーブルに手を付き、周りの視線を気にせず唇を重ねた。
目を丸くしている不動の意思など、無視して。
甘い。
ココアの味がする。
『んむ…』
ちゅ、と音を立てて舌を吸う。
ぴくりと反応してくれた体が愛おしい。
『…よし』
『よし、じゃねぇよ!』
テーブルに拳を付き、真っ赤になって顔を伏せている。
『顔を隠しても丸分かりだな、髪が無いから』
ふざけたようにそう言ってやれば、少しだけ上げられた顔に視線だけで殺されそうなほど睨まれた。
『鬼道ちゃんのすけべ』
『早く飲まないと冷めるぞ』
『無視かよ、畜生』
『すけべな俺も好きだろう』
コーヒーを一口飲む。
少し冷めていたそれは程よい苦みで、やはり俺はココアよりコーヒーが好きだと思った。
『…好きだよ、ちくしょー』
『ふっ』
込み上げてきた愛しさに頬が緩み、つい笑ってしまった。
不動はまた顔を伏せ、ぶつぶつ文句を言いながら体を揺らしている。
二口目のコーヒーはさっきより甘い。
そんな気がした。
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