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雨が降る。
叩き付けられた水の音。
湿気で澱んだ空気の匂い。
雨は降る。
ずぶ濡れの青いマント。
変色した空色のユニフォーム。
雨は、まだ、降る。
震える手を重ねて。
怯える目を見つめて。
冷たい唇を合わせた。
『……、』
何か言いた気に開いた口は結局何も言わずに閉じられた。
八の字に下がる眉が変に可笑しくて、無意識に笑みが浮かぶ。
目尻に浮かぶ涙を舌で掬い上げ、ちゅ、と吸い上げる。
しょっぱい味が咥内に広がって、こくりと嚥下。
『…離れたく、ない…』
震える手でユニフォームを握られ、限界まで水を吸った生地が耐え切れず、雨を涙のように滴らせた。
『もっと深く、一緒に堕ちようぜ?』
恍惚の光が赤色に広がり、目の前の彼はうっとりとした表情で俺を見詰める。
息も出来ないくらい甘ったるい空気の中、すっかり冷えた唇をまた押し付けた。
雨が降る。
道から外れた二人を覆い隠すように。
雨は降る。
自ら道を選んだ二人を祝福するように。
雨は、まだ、降る。
ずぶ濡れの赤いマント。
変色した深緑のユニフォーム。
雨は止まない。
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